音楽とともに

心に入って来た音楽を〈共有〉できたらと思います。よろしかったら、おつきあい下さい。

「あそびな」

 1997年の、下田逸郎のアルバムである。
 内田勘太郎斉藤ノブもたいまさこ小林聡美などが参加している作品で、ぼくは翌98年、長野の鬼無里村へ、下田逸郎のライブを聴きに行っている。

 お店の人のはからいで、一番遠方から来たぼくが、ライブ後の飲み会みたいな時間、下田さんとサシムカイの席で、ちょっと乾杯した。
 基本的にぼくは内向的なので、それほど多くを、下田さんとおしゃべりしたわけではないのだが、「ちょっと、大変だったんじゃないですか?」みたいなことを訊いた。

 特に根拠はなかった。ただ「あそびな」の後、まったく「なんとなく」下田逸郎、大変そうだな、と感じていたからだ。生死に関わる、といっては大袈裟だが、少しは、関わるような気がした。

「… ちょっと、ヤバかったけどね。」と、まっすぐぼくを見て、下田さんは言った。その、いつも真っ直ぐな視線で。
「あそびな」は、そんな、デスペレートなアルバムではない。妙な質問をしてしまったなと思っていると、
「でも、あれ(「あそびな」)を、最後のアルバムになっちゃったら、ちょっと残念だと思ってさ。」

 日本の唱歌、童謡のような曲ばかりを歌った「ゆりかごの唄」が出た時は、「これは、下田さんの遺言ではないか」と感じた、というコメントを、インターネットの、どこかのサイトで見た。

 戦後文学の椎名麟三も(突然)、「こいつはいつ自殺するのだろう」と、批評家から期待されていたらしい。
 裏切ってくれて、ほんとうによかったと思う。

 あそびな。
 気楽に、生けたらと思う。